Classiques japonais avec furigana
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ほうろうさっかのぼうけん
放浪作家の冒険
西尾 正
Lisez 放浪作家の冒険 (ほうろうさっかのぼうけん) de 西尾 正 (にしおただし) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 16 694 caractères · 33 écrans
彼の最も愛好する安酒が彼の五官に浸透するに伴れ、暗鬱な無口が次第に滔々たる饒舌に変わり、どこかこう、映画俳優の So-jin に似た瑰な、不敵の、反逆の、そして太々しい好色の瞳をぎょろつかせながら云った。
「――そんなにききたいならはなしてもいい。題して『放浪作家の冒険』てんだ。名前は勇ましいがなかみはナンセンスだ。さあ、お御酒がまわったから一気にしゃべるぞ!」
と云うわけで、以下はとりもなおさずその再録である。
但し、文中の地名は、或る必要から曖昧にした。
そう、あの晩はばかにむしゃくしゃした晩だった。もっとも、おれのようになんのあてもなく自堕落な生活をおくっているものに、むしゃくしゃしない日なんかありようがないが、あの晩はとくべつ、淋しく腹立たしい、いやな晩だった。でなければもはや、どんな空想の余地すらも、残っていないあんなところへ、だれがゆくものか。そのころおれは、Q街の陶物屋のあたまのつかえそうな屋根裏に寝起をしていたが、窓からそとをのぞいてみると、VホテルやN寺院やE門やの壮麗な建物の屋根々々や尖塔に、寒月が水晶のようにかたァく凍りついて、雲の断片さえもみえぬたかい夜空が白日のように皎々とかがやき、まるでね、陽気が日本の冬のように、音をたてずに肌をとおす底びえのする寒さだった。