Classiques japonais avec furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lisez 旅愁 (りょしゅう) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 576 941 caractères · 1138 écrans
「いや、来て良かった。もう何ものも要らん。」
深く頷く矢代の眼の前で機関車は、高原の風景はまだまだこれからだと云わぬばかりに無限に頁を繰り拡げていくのだった。こうして、日の暮れかかる前にようやくチロルのインスブルックへ著いたときは、矢代はがっかりと疲れてしまった。
クックであらかじめとって貰って置いたホテル・カイザは駅からすぐだった。彼は久慈から手紙でも来ていないかと思い訊ねてみるとそれはまだだったが、出された宿帳へ名を書き入れてふと自分の名の上の署名を見ると、千鶴子の名が見覚えの筆跡で書いてあった。
疲れとともにようやく人恋しさの加わっているときだったので、矢代はあたりの室内が急に体温に温められた明るさで満ちて来た。案内されて登る未知の階段ももう自分のもののような手触りを感じ、せかせかと馳け登りたい親しさだった。定められた部屋で旅装を解いてから、矢代はすぐ千鶴子の部屋を訊ねてドアを叩いてみた。
「あんとれ。」
と中から声があり矢代はドアを開けた。
「あら。」手紙を書いていた千鶴子は、振り向くと同時に急に安心したようにペンを投げ出して立って来た。
「あたし、ひやひやしてましたのよ、今朝著いたんだけど、もしかして矢代さん、いらっしゃらなければどうしょうかと思ってたところなの。