Classiques japonais avec furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lisez 旅愁 (りょしゅう) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 576 941 caractères · 1138 écrans
街端れをすぎて影の消えた所へさしかかってからは、邪魔物もなく降り注ぐ光りでますます矢代は幸福を感じた。それは千鶴子とはも早や何んの関係もない、自然の法悦のようなものだった。
谷を見降ろし山を見上げる眼に、波うつ雪の白さがうす紫に霞んで見え、足もとのあたりからぼっと金色の光彩の打ちあがって来る中に、自分の影だけ長く後に倒れかかっていた。足に気をつけて歩いているためか、間もなく脇下から汗が流れて来た。彼は休んで空を見上げると、実にふかぶかとして澄んだ空だった。またそのあたりが千鶴子を橇に乗せて来たとき、風の荒れ狂った場所でもあった。あの風に乗って狂いはためく羽音を立てて橇を襲った、例の夢中の千鶴子の飛び廻ったところもこのあたりだ。それに今は、澄み返った空にくらげの浮き漂うような安らかさで、また何ものか透明な流れるものの姿を感じ、矢代は、その諦めたようなひっそりした静けさにふと悲しみを覚えた。
彼はあの夢の千鶴子が忘れられずいとおしかった。もし千鶴子と結婚が定まれば、もうあの夢とも最後かもしれぬ。そう思うと、見上げる空の色がいつもより遠ざかって深かった。