Classiques japonais avec furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lisez 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) de 島崎 藤村 (しまざきとうそん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 149 813 caractères · 302 écrans
急に皆川医学士が看護婦を随えて入って来た。学士は洋服の隠袖(かくし)から反射機を取出して、それでお房の目を照らして見た。何を見るともなしにその目はグルグル廻って、そして血走った苦痛の色を帯びていた。学士は深い溜息(ためいき)を吐(つ)いて、やがて出て行って了った。
夢のように窓が白んだ。猛烈な呼吸と呻声(うめき)とが私達の耳を打った。附添の女は走って氷を探しに行った。お房の気息(いき)は引いて行く「生」の潮(うしお)のように聞えた。最早(もう)声らしい声も出なかったから、せめて最後に聞くかと思えば、呻声(うめき)でも私達には嬉しかった。死は一刻々々に迫った。私達の眼前(めのまえ)にあったものは、半ば閉じた眼――尖った鼻――力のない口――蒼ざめて石のように冷くなった頬――呻声も呼吸も終(しまい)に聞えなかった。
数時間経って、お房が入院中世話に成った礼を述べ、又、別れを告げようと思って、私は医局へ行った。その時、大きなテエブルを取囲(とりま)いた学士達から手厚い弔辞(くやみ)を受けた。濃情な皆川医学士は、お房のために和歌を一首作ったと言って、壁に懸けてある黒板の方を指して見せた。