Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

ja-reading.com

Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

くすのきのはなし

楠の話

豊島 与志雄

Lisez 楠の話 (くすのきのはなし) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 10 820 caractères · 22 écrans

Aozora Bunko

何もかも無くなっていい。ただ楠だけ残って居れば……。」

私は云ってしまって自分でも喫驚した。何か云ってならないことを云ったような気がした。然し私の言葉をきいて、父は急に顔を和げて云った。

「そうだ楠だけは残しておきたい。裁判がうまくゆけばいいが。……なに大丈夫だろう。」

それで私はほっと安心したが、同時に、母が非常に悲しげな眼付をしたのに気付いた。

私は父の言葉をきいて、楠だけは大丈夫だと思い込んでしまった。そしてすっかり心が落着いた。

其後、家には来客がなお少くなった。その代りIとKとは毎日のようにやって来た。然し私はもうそんなことを気にしなかった。何も彼も無くなってただ楠だけが残るということが、私の幼い空想を喜ばした。それは「自由」に憧れる心地と同じようなものだった。

所が或る日学校から帰って来ると、私は意外なことに出逢った。家には、IとKと其他村の四、五人の者が来て酒を飲んでいた。皆縁側に腰掛けていた。私はその前に軽く頭を下げて奥にはいった。すると出合頭に父が出て来た。父は長い口髭の下に唇をきっと結んでいた。そして私は、その時位父の額が広く高く聳えているのを見たことがなかった。