Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

ja-reading.com

Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

Lisez 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 145 078 caractères · 285 écrans

Aozora Bunko

広縁に出て左へ曲った。渡り廊下を渡ると、向うは一段高くなっており、伊達家の人びとの宿坊が並んでいた。白い障子を閉したそれらの座敷に添って、高廊下をゆき、もういちど左に曲ると、原田家の座敷の前へ出た。宇乃はそこで立停って、昏くなりはじめた庭のかなたを見た。そこに樅ノ木があった。彼女の眼は蘚苔の付いた石燈籠も、境の土塀も見ず、まっすぐにその樅ノ木を見た。九年まえに見たときと、さして違ったようには思えなかった。幹も太くなり丈も伸びたが、他の木のようには育たないのであろうか。宇乃はそっと、なにかをおどろかせまいとするように、忍びやかにそこへ坐った。

宇乃が高廊下へ坐ったとき、こまかな雨の中に、白いものがちらちら混るのが見えた。

「おじさま」宇乃は樅ノ木に向かって、口の中で囁きかけた、「――宇乃でございます」

眺めているうちに、白いものはしだいに多くなり、そのため、くろぐろと枝を張った樅ノ木が、はっきりその姿をあらわすように思えた。

――私はこの木が好きだ。

初めてここで会ったとき、甲斐はその樅ノ木を宇乃にみせて云った。

――この木を大事にしておくれ。

そのときの甲斐の、やわらかな声や、白い歯の覗くやさしそうな顔が、いまでも記憶に深く残っている。