Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

Lisez 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 145 078 caractères · 285 écrans

Aozora Bunko

そうだ。そのつぎにやはりここで、この廊下で、甲斐と自分はあの樅ノ木を見た。そのときはいまのように雪が降っていて、自分はあの方に抱きついた。

――おじさま生きていらしって。

抱きつきながら、そう云ったのを覚えている。あのとき自分は、幼ない者の本能で、もうなにかを感じとっていたのだろうか。いいえ、そうではない、そんなことを感じたのではない、自分はただ別れることが悲しかった。あの方が船岡へお帰りになるというので、こころぼそさと悲しさでいっぱいだったのだ。

雪はしだいに激しくなり、樅ノ木の枝が白くなった。空に向かって伸びているその枝々は、いま雪を衣て凛と力づよく、昏れかかる光の中に独り、静かに、しんと立っていた。

「――おじさま」

宇乃はおもいをこめて呼びかけた。すると、樅ノ木がぼうとにじんで、そこに甲斐の姿があらわれた。彼のもっとも好きな、紺染めの麻の帷子を着、右手に刀をさげている。慥かに、紺染めの麻の帷子だ。宇乃は微笑した。甲斐の姿がそこにあらわれたことを、少しの不自然さも感じずに受入れることができ、宇乃はもういちど微笑しながら云った。

「おじさま」

甲斐が「宇乃」