Classiques japonais avec furigana
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つがるのむしのす
津軽の虫の巣
宮本 百合子
Lisez 津軽の虫の巣 (つがるのむしのす) de 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 5 198 caractères · 10 écrans
俄に勃興した江戸歌舞伎の、心を嗾(そそ)る団十郎の妙技、水木辰之助の鎗踊、それに加えてさらに好事家の歎賞を恣(ほしいまま)にする師宣の一枚絵は、たとい辺土とは言いながら、津軽の藩中にもその崇拝者を持っている。
良人の留守を守って、心怠りの無かった女達が、私に与えられる南蛮渡りの象牙、珊瑚(さんご)珠、天鵞絨(ビロード)の小帯を、仄暗い燈台の陰で人知れず眺める喜びと、一蝶の戯書(ざれがき)を同好の士に誇る老臣の喜悦とは、その間に必しも大小はない。
当座は、身柄相当に四辺を潤おす土産話に、冬近い北国の城下はときならぬ陽気に蘇返った賑いを見せたのである。
けれども、やがてはそれも耳古りて来ると、今迄どこかの隅に逼塞していた、江戸表の噂も、こんどは施政の是非が人々の口に喧しく批評されるようになって来た。
それも在り来りのお家騒動やお白州事ではない。
お大名の間には、由々しい大事として、目下取沙汰されている当代綱吉公の、生類憐愍(れんびん)のことに就てなのである。
二
始め、天資英明の聞えが高かった綱吉が、彼の初政に布いた善政は、長く諸人の胸に留まっていたので、生類憐愍の令も、或る程度まではいくらかの同情をもって、寛容に観られていたでもあろう。