Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

しぶやけのしそ

渋谷家の始祖

宮本 百合子

Lisez 渋谷家の始祖 (しぶやけのしそ) de 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 68 023 caractères · 133 écrans

Aozora Bunko

。

八

その、正隆にとっては、寧ろ望外ともいうべき信子を、いよいよ滞りなく妻として迎えて、同じ構えの中に新居を持ち、また、長兄の尽力で今度は、農商務省へ出勤するようになって見ると、正隆は、どれほど謙遜に計って見ても、自分が幸福への、最も確実な鈎を投げた者とほか思われなかった。

物質は、新しい家庭に華やかな色を添える以上に豊富である。生活の変化と共に甦った功名心は、そろそろと彼の胸の中で芽を吹き始めていた。その上、兎角面倒の起り易い嫁姑の間は円満で、彼の眼から見ると、互に競い合っているようにさえ見える二様の愛が、持ち得る総ての奉仕を捧げて、彼の前に呈せられているのである。

一年前の、K県での暗い月日は、今思い出すだけの価値もないようにさえ思われる。正隆は、現在自分を抱擁する薫しい幸運の徴(きざし)の裡に、あらゆる過去の陰翳を否定していた。否定していたのみならず、あの瞬間と、今の、この、光り輝く薔薇色の瞬間との間には、何の連絡もなく思われたのである。

幸福を思って微笑する時み、悲運を思って、思わず眉をひそめる時にも、正隆は決して自分をその中点として描いてはいなかった。