Classiques japonais avec furigana
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こすいとかれら
湖水と彼等
豊島 与志雄
Lisez 湖水と彼等 (こすいとかれら) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 12 351 caractères · 25 écrans
彼女はじっと耳を澄して隠れたる物の囁きを聞き取ろうとした。舟の中の二人の運命が夢のような静けさを取って彼女の心に写った。其処から怪しい蠱惑の不安が手を伸した。彼女はまた外に出てみた。それは日暮頃から四度目であった。彼女はまだ一度も舟の姿を認めなかったので。
空にはもう太陽の光りが全く消えてしまっていた。そして月が明るく輝いて、物の象の上に青白い匂いを置いた。湖水の上には夕靄が薄すらと靉いて、水の面が水銀のように光っていた。彼女はじっと月明りに透し見た。
舟が夢の国のように水面に浮いて見えた。彼女は我知らず息を潜めて其処に立ち竦んだ。
二人は向い合って褞袍を被り乍ら舟の中に坐っている。男は両手を緊と握り合せて胸の処に組んだまま首を垂れている。女は両手を重ねてそっと胸を押えたまま同じく首を垂れている。――祈っているのだ! そのまま石になりそうに思われるほど彼等はじっとしている。凡てのものが息を潜めている。時が音を立てないで静に過ぎ去る。……やがて女はそっとハンカチを自分の顔に当てた。それからまた男の眼と頬から涙を拭ってじっとその顔を覗いた。その時男は組み合せた両手を解いて柔く女の頸を抱いた……男は立ち上って櫂を手にした。