Classiques japonais avec furigana
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ぼんのうひぶんしょ
煩悩秘文書
林 不忘
Lisez 煩悩秘文書 (ぼんのうひぶんしょ) de 林 不忘 (はやしふぼう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 86 705 caractères · 173 écrans
花の香を消す血のにおいが漂って、野の末にはむくむくと、梯子をかけて登れそうな雲の峰の群らだちである。
その、夏の陽ざかりの入道雲を背景に、白い棒のような剣がうごいて、人は、草をふみしだいて縦横に馳駆する。
大次郎も、かなり斬りつけられているに相違ない。着物はところどころ裂かれて、若布のように下がり、どす黒い血を全身に浴びて、顔ももはや人相がわからないほど血まみれなのだ。
血で、女髪兼安の柄が滑るのか、時どき片手ずつ離してはじぶんの脇腹へ股へ、赤い掌をこすり拭いている。
出羽は、動かない。
両手をひらき気味に、背後の千浪を遮って立ちはだかったまま、じっと、その大次郎の太刀捌きを眺めているのだ。
広い野づらに、小さな人影が入り乱れて、血戦はつづいてゆく。花だけが静かに呼吸づき、雲は、移るともなく、すこしずつ流れている。
この時である――。
お花畑の隅の、山みちに寄ったほうに、一むらの灌木の繁みがある。その陰にそっと身を潜めて、葛籠笠を傾け、道中合羽の袖を撥ねて、さっきから憑されたように、この斬りあいに見入っている人物がある。
手甲脚絆、荒い滝縞の裾高くはしょって、一本ざし――見覚えがある。