Classiques japonais avec furigana
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しろが
白蛾
豊島 与志雄
Lisez 白蛾 (しろが) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 10 700 caractères · 22 écrans
蚊帳がゆらいで、ばたばた音がしていました。白い粉がかすかに散っていました。頭をもたげて見ると、真白な大きな蛾、掌よりも大きな白蛾が、蚊帳にとまりかねて羽ばたいていました。拇指ほどもある大きな腹部の重さをかかえて、しきりに羽ばたいていました。その純白な大きな四枚の翅は、美しいというよりは奇異でした。
それを岸本はじっと眺めていました。すると、眠っていた筈の美津枝が、静かに上半身を起して、寝間着を片方の肩からずり落したまま、白い蛾を見つめました。その頬は蝋のようで、体には息使いの動きさえないようでした。彼女は長い間蛾を見つめて、やがて蚊帳から出ました。そしてもう蛾の方は見向きもせず、ゆっくりと、着物をつけはじめました。
岸本は驚いて、彼女の手を捉えました。
「どうしたんです。」
彼女はじっと彼を眺めて、頭を振りました。
「もう帰りましょう。」
水の中のような、然し抗し難いものを秘めてるような、そういう声音と岸本には感ぜられました。
彼の言葉には、彼女はそれきり返事をしませんでした。そして、今晩は帰るとしてもよいが、一週間後にまた逢って下さるかと、彼が哀願するように言いましたのに対して、彼女は返事のためか自分自身に言いきかすのか分らぬしぐさで、二度ほどゆっくり頷いてみせました。