Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(四) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 229 324 caractères · 458 écrans
「ここから眼に入るだけでも、何万人ていう寄手の軍勢だ。花なら一目千本といえるが、みんな鼠色になった旗やら幟だらけ。いや鳥獣は驚いていやがるだろうナ」
しかたなしに権三も、大蔵に倣って、そばの岩に腰かけたが、こんな眺めは見飽きている彼なのだ。木菟にそっくりな瞼の皮をショボつかせ、
「……面白くもねえ」
と、いった顔。
その彼にかまわず、大蔵はひとり、ここからの俯瞰を愉しんで、やがて後ろの峰の一ツを振り仰いだ。
赤茶けた山火事の禿げあとに、上赤坂城の残骸が、峰から沢へかけて望まれる。
「ああ、やっぱり陥ちたのか」
大蔵は嘆声をもらした。
「上赤坂は、金剛山のヘソ城だ。あれが陥ちては素人眼にさえもう上の千早城も長い寿命とは思えねえ! 痛えだろうな、楠木方に取っては」
彼が何を見、何を思うのかは分らない。
が、彼の眼を仮りて、ここで大金剛一帯の守備と寄手の配置とを見ておくのは、無用であるまい。
大蔵がいま、
「上赤坂は金剛山の臍だ」
といったが、いみじくもよく言った。おそらく楠木正成は、そこを正面防禦の中心として、全山にわたる他の幾ツもの小砦を、連珠的につないで、守備構想をたてていたにちがいない。