Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(四) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 229 324 caractères · 458 écrans
いや進むのでなく、おなじ業を持った人間の車輪にうしろから押し出されていたのである。――そうして頭上を通ッてゆく味方からの掩護の火箭や矢叫びも、もう聞えず、あらゆる音震にも皮膚が無知覚になったとき、一つ一つの兵の顔は人間を脱して、眼と爪だけのものに変っていた。おそらく一人一人の家郷にある妻子が夢にでも見たら悲鳴のうちに夢醒めて哭かずにいられないものだった。しかし、彼らは攀じてゆく死の壁から振向きもできなかった。崖肌の窪みをつたい、岩蔭をさがし、たえず亀首をすくめながら、ただ衆の中で衆を恃みに這っていた。
すると、ふいに。
だ、だ、だ、だッ……
ど、ど、どっ……
と、千早谷から金剛谷にわたる連壁が鳴り出した。
「しゃッ」
「来たっ」
せつなには、人間の声が一切しなくなる。
兵も将も途中の断崖に抱きついた。怒りに震う山肌は土をとおして彼らの五臓六腑に、もンどり打たす。上からころがッてくる無数な岩や大石が、みるまにあたりの戦友を奪い去って行った。そして薄くなった地面のあとに、血しぶきが光を持ち、血は碧い虫みたいに、流れてうごいた。
「くそっ」
「畜生」
「死んでたまるか」