Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lisez 私本太平記 (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 126 598 caractères · 254 écrans
なお、手抗いいたす気か」
「む、無慈悲な」
「なにが無慈悲ぞ。女房を憐れと思うなら、白をきるのはよすがいい。ええい面倒な、四の五をいわせず、引っ縛めろ」
言下に、部下の人数は、おめきかかって、ふたたび雨露次の身を地にねじ伏せた。雨露次はもう手むかいもしなかった。夜は明けて、川ノ辻には毎日の櫓音が、今日も変りなく行き交いしていた。
わずか百余の兵でも、軍が駐まると、幽邃な庭も、一夜に殺伐な辻と変ってしまう。
それも、権威ある寺では、立ち入りなど許さぬが、藤井寺は往年の洪水で荒廃したままだった。本尊の石川観音の御相が、からくも茅葺堂に守られている程度である。――で、昨日から、六波羅兵と放免(密偵)どもの、煮炊きの跡や馬糞やらで、そこは狼藉を極めていた。
「ち、うるさいなあ」
ここの部将らしい虎ヒゲの男だった。一堂の濡れ縁に腰かけて、どなっていた。
「ギャアギャアと、いつまで餓鬼を泣かせておくか。赤子の声などは、変な里心がついていかん。いいかげんにぎ離して、女だけをここへ曳いて来い」
兵の一人が駈けよって、それへ答えた。
「飢もじいせいだそうです。米の粉か葛粉をくれと、女は申しおりますが」