Classiques japonais avec furigana
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ぬいこ
縫子
宮本 百合子
Lisez 縫子 (ぬいこ) de 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 9 962 caractères · 20 écrans
というなみのいつも穏やかな、歯の工合でも悪そうに引かかる国訛の残っている声がした。
「――また例のでしょう」
こちらへ出て来ながら、縫子の床を見下し彼女は愕(おどろ)きもせず云った。
「――どうも二三日怪しいと思っていましたよ――顔の上気せかたが変だったもの。――さあ登美ちゃん、髪をお結いなさい、もういいから……」
縫子が寝ついたということは、よその家庭で電球が一つこわれたという位の感情しか家じゅうに惹起さないらしかった。商工省の小役人である父親の勘次郎は、朝食後の爪楊子を口中でころがしながら、
「どうした」
と一言云ったぎり、縫子の夜具の裾の方で洋服に着換え、いつもの通り出勤して行った。
三
お針子がいるしするので、杉村では御総菜などに手間をかけない風であった。昼になみは、米(よね)のところから貰った鰯の干物を焼いた。そして自分だけ先に食べ終った。あとから、縫子が赤い細紐姿で餉台のところへ出て来た。番茶が注ぎ置きになって瀬戸引の薬罐にあった。彼女は飯の上からそれをかけ、干物をむしりながらお茶漬を食べはじめた。目の前は三尺の縁側、直ぐ隣家の生垣で疎らな檜葉の間から庭の一部が見えた。