Classiques japonais avec furigana
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せんいのたちば
船医の立場
菊池 寛
Lisez 船医の立場 (せんいのたちば) de 菊池 寛 (きくちかん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 10 712 caractères · 22 écrans
十三日は空がよく晴れ、横浜の沖は、春の海らしく和み渡った。今夜こそと思っていると、朝四つ刻、黒船の甲板が急に気色ばみ、錨を巻く様子が見えたかと思うと、山のごとき七つの船体が江戸を指して走り始めた。海岸警衛の諸役人が、すわやと思っていると、羽田沖で急に転回し、外海の方へ向けて走り始めた。
一艘はそのまま本国へ、他の六艘は下田へ向ったという取沙汰であった。
寅二郎と重輔は、黒船の動き出すのを見ると、口惜し泣きに泣いたが、下田へ向ったのを知ると、すぐ保土ヶ谷の宿を払って、その後を慕った。
鎌倉、小田原、熱海と泊って、今日三月十七日熱海を立ったのである。
二人が、伊東へ一里ばかりの海岸へ来たときに、道の両側に蜜柑畑があり、その中には早しらじらと花の咲いたのがあって、香ばしい匂いが、鼻を衝いた。二人が蜜柑畑の中の畔に腰を下ろして、割籠を開こうとしたときだった。蜜柑の畑の中に遊んでいたらしい子供が声を上げた。
「やあ! 千石船が通るぞ。やあ、千石船よりもまだ大きいぞ。しかも二艘じゃ」
寅二郎は、なんの気もなく海上を見た。見ると、海岸から一里も隔っている海上を、異様な怪物が、黒色の煙を揚げつつ疾駆しているのだった。