Classiques japonais avec furigana
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しょうたく
荷風随筆集(下)〔全2冊〕
永井 荷風
Lisez 荷風随筆集(下)〔全2冊〕 (しょうたく) de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 36 633 caractères · 74 écrans
や街路の上には存在していないのかも知れない。
当時わたくしは若い美貌の支那人が、辮髪の先に長い総のついた絹糸を編み込んで、歩くたびにその総の先が繻子の靴の真白な踵に触れて動くようにしているのを見て、いかにも優美繊巧なる風俗だと思った。はでな織模様のある緞子の長衣の上に、更にはでな色の幅びろい縁を取った胴衣を襲ね、数の多いその釦には象眼細工でちりばめた宝石を用い、長い総のついた帯には繍取りのあるさまざまの袋を下げているのを見て、わたくしは男の服装の美なる事はむしろ女に優っているのを羨しく思った。
清朝の暦法はわが江戸時代と同じく陰暦を用いていた。或日父母に従って馬車を遠く郊外に馳せ、柳と蘆と桑ばかり果しなくつづいている平野の唯中に龍華寺という古刹をたずね、その塔の頂に登った事を思返すと、その日はたしかに旧暦の九月九日、即ち重陽の節句に当っていたのであろう。重陽の節に山に登り、菊の花または茱萸の実を摘んで詩をつくることは、唐詩を学んだ日本の文人が、江戸時代から好んでなした所である。上海の市中には登るべき岡阜もなく、また遠望すべき山影もない。郊外の龍華寺に往きその塔に登って、ここに始めて雲烟渺々たる間に低く一連の山脈を望むことができるのだと、車の中で父が語られた。