Classiques japonais avec furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Lisez つゆのあとさき de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 725 caractères · 148 écrans
それと同時に、やがて疲労の恢復した後おのずから来るべき新しい戯れを予想し始めるので、いかなる深刻な事実も、一旦睡に陥るや否や、その印象は睡眠中に見た夢と同じように影薄く模糊としてしまうのである。君江は睡からふと覚めて、いずれが現実、いずれが夢であったかを区別しようとする。その時の情緒と感覚との混淆ほど快いものはないとしている。
この日も君江はこの快感に沈湎して、転寐から目を覚した時、もう午後三時近くと知りながら、なお枕から顔を上る気がしなかった。枕もとを見れば、昨夜脱ぎ捨てた着物や、解きすてた帯紐に取乱されている裏二階の四畳半は、昨夜舞踊家の木村が帰った後、輸入商の矢田が来て、今朝方帰りがけに窓の雨戸一枚明けて行ったままで、消し忘れた天井の電燈さえまた昨夜と同じように床の間の壁に挿花の影を描いている。懶い稽古唄や物売の声につれて、狭間の風が窓から流れ入って畳の上に投げ落した横顔を撫る心地好さ。君江は今こういう時、矢田さんでも誰でもいいから来てくれればいい。そうすればありとあらゆる身内の慾情を投げかけてやろうものをと思うと、いよいよ湧起る妄想の遣瀬なさに、君江は軽く瞼を閉じ、われとわが胸を腕の力かぎり抱きしめながら深い息をついて身もだえした。