Classiques japonais avec furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Lisez つゆのあとさき de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 725 caractères · 148 écrans
三
」と定子は帯の間から取出す伝票紙に注文の品を書きながら立って行った。
明り取りの窓にさしていた夕日の影はいつか消えて、階段の下から突然蓄音機が響き出した。これが五時半になった知らせで、三時過から休んでいた女給も化粧をし直して出てくる。階上階下の電燈には残りなく灯がついて、外はまだ明い夏の夕方も建物の内ばかりは早くも夜の景気である。
三
帰り途が同じ四谷の方角なので、君江と春代とは大抵毎晩連立って数寄屋橋あたりから円タクに乗る。銀座通では人目に立つのみならず、その辺にはカッフェーを出た酔客がまだうろうろ徘徊しているので、これを避けるため、少し歩きながら、通過る円タクを呼止め、値切る上にも賃銭を値切り倒して、結局三十銭位で承知する車に乗るのである。その晩二人は数寄屋橋を渡ってガードの下を過ぎ、日比谷の四辻近くまで来たが、三十銭で承知する車は一台もない。春代は腹立しげに、「何だい。馬鹿にしている。停るかと思ったら、あいつも行ってしまった。」
「いいわよ。ぶらぶら歩きましょうよ。少し酔ったから丁度いいわよ。」
「もうすっかり夏だわねえ。御堀の方を見ると、まるで芝居の背景見たようねえ。