Classiques japonais avec furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Lisez つゆのあとさき de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 725 caractères · 148 écrans
しかしその太い柱と土台には根継をした痕があって、屋根の瓦は苔で青く染められている。玄関側の高い窓が明放しになっていたが、寂とした家の内からは何の物音も聞えない。窓の下から黄楊とドウダンとを植交えた生垣が立っていて、庭の方を遮っているが、さし込む日の光に芍薬の花の紅白入り乱れて咲き揃ったのが一際引立って見えながら、ここもまた寂としていて、花鋏の音も箒の音もしない。唯勝手口につづく軒先の葡萄棚に、今がその花の咲く頃と見えて、虻の群れあつまって唸る声が独り夏の日の永いことを知らせているばかりである。
「御免下さい。」と肩掛を取りながら、静に格子戸を明けると寂とした奥の間から、「どなたじゃ。」という声がして、すぐさま襖を明けたのは、真白な眉毛の上まで老眼鏡を釣し上げた主人の熙であった。
「鶴子か。さアお上んなさい。今日は婆やはお墓参り。伝助も東京へ使にやって誰もおらん。」
「それじゃ、丁度よう御在ました。代りに何か御用をいたしましょう。」と婦人は包を持ったまま、老人の後について縁側づたいに敷居際に坐り、
「もう虫干をなさいますの。」
「いつという事はない。手がないから気の向いた時、年中やるよ。