Classiques japonais avec furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Lisez つゆのあとさき de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 725 caractères · 148 écrans
もし自分が関係を断つような事があっても女の方では別に名残惜しいとも何とも思わないように見える事である。君江は自分との関係が断えればかえってそれをよい事にして、直様代りの男を見付けて、今と同じように、たわいもなく浮々と日を送るに相違ない。虚栄と利慾の心に乏しく、唯懶惰淫恣な生活のみを欲している女ほど始末にわるいものはない。こういう女を苦しめるには肉体に痛苦を与えるより外には仕様がないかも知れない。といって、まさかに髪を切ったり、顔に疵をつけたりする事もできないとすれば、まず二、三カ月も床につくような重い病気に罹るのを待つより外に仕様がないわけである。そんな事を考えながら足の向く方へとふらふら歩きながら、ふと心づいて行先を見ると、燈火の煌々と輝いている処は市ヶ谷停車場の入口である。斜に低い堀外の町が見え、またもや真暗に曇りかけた入梅の空に仁丹の広告の明滅するのが目についた。
君江の家はあの広告のついたり消えたりしている横町だと思うと、一昨日から今夜へかけてまず三日ほど逢わないのみならず、先刻富士見町で芸者から聞いたはなしも思い出されるがまま、とにかくそっと様子を窺って置くに若くはないと思定め、堀端を歩いて、いつもの横町をまがった。