Classiques japonais avec furigana
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ジロリのおんな
ジロリの女
Lisez ジロリの女 (ジロリのおんな) de Sakaguchi Ango (坂口 安吾) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 51 597 caractères · 102 écrans
私はヤス子を怖れていたが、罪を怖れてはいなかった。
誘拐の罪で捕われて裁かれる、それぐらいに、たじろぐ気持はなかったのだ。私はニヒリストでもロマンチストでもない。私のような人間は、金さえあれば、と思っている。金銭万能、金さえあれば、なんでもある、イノチもある。牢獄から出たときに、私の仕事のツナガリがまだ残っていて、なんとか金のはいる道があれば、それでよい。然し、会社がうまくそれまで存続するか、もしもツブレてしまっていれば、私はそれを思うと、やっぱり、いくらか、ゾッとする。いさゝか恐怖に目をとじる。そのときは、死ななければならないような気がするからだ。金がなければ、イノチもないのである。まア、然し、そのときはその時だ、と、思いついて、私は安心して目をあけるのである。
私はヤス子が入れ歯を包んできてくれたハンケチを貰って、大事に胸のポケットにしまっていた。時々それを取りだして、せつない思慕にふけった。
別に魅力のある肉体でもない。どこといって、特に考えると、つかまえどころのない平凡なヤス子であった。何が、いったい、私の心をつかみ、これほども思いの全てを切なくさせてしまうのだか、もう私には考える力もないのであった。