Classiques japonais avec furigana
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プウルのかたわらで
プウルの傍で
Lisez プウルの傍で (プウルのかたわらで) de Nakajima Atsushi (中島 敦) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 16 843 caractères · 34 écrans
一寸首を傾げて、黒瞳で彼を見上げた、その表情に、その時、はじめて媚らしいものが現れた。三造は頭をふって、もう一度「さよなら。」と言った。そして、受取ったボタンをズボンのポケットに入れて、十間程、さきに待っていた友達の方へ歩き出した。二人並んで坂をおりはじめた時、やっとふだんの平静さにもどった態度で、友達は三造の背中を強く叩いて、――だが、彼らしく女性的に――笑った。
「うまく、やっとるぞ。達者だなあ。君は。」
彼は、そうして、自分もそのほころびた袖を見せて、またおかしそうに笑った。三十歩ほど歩いてから振返ると、先刻の街燈の下に、まだ、あの少女の立っているのが小さく見えた。坂をおりて、内地人町の大通りへ出てから、友達はもう家へ帰ると言出した。
「君も、もう帰るんだろう?」
「うん。」と、三造は答えた。
友達と別れてから、しかし、彼は家へは帰らなかった。彼は内ポケットから財布を取出して、中を検めると、再びそれをしまった。それから、自分の興奮と動悸とを静めるために、ことさらに大胯に、今おりて来た坂道をまた登りはじめた。
その部屋は天井の低い、三畳ほどの温突であった。