Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

ja-reading.com

Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

ふたつのみち

二つの途

豊島 与志雄

Lisez 二つの途 (ふたつのみち) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 51 102 caractères · 104 écrans

Aozora Bunko

信子も立ち上った。然しまた其処に坐ってしまった。涙がこみ上げて来た。雅子がその側にすり寄った。

「あなたにもほんとに苦労をかけましたね。悪く思わないで下さい。」

「いいえ、私は……。」と信子は云いかけて、声を呑んだ。

しめやかな沈黙が続いた。高子は一人で幾つもの風呂敷包みを拵えた。

やがて木下は戻って来た。額は汗ばんでいた。彼は雅子にお辞儀をして、啓介の方へ口早に云った。本田医学士が便宜を計ってくれたこと、病院の一等室を一つ空けて貰ったこと、本田氏は容態を気遣ったが、大丈夫だと自分で引受けて無理に頼んできたこと、午後三時前に寝台車と俥四台とが来るようになってること、本田氏が病院で待っていてくれること、河村氏もその時病院の方へ来て貰えること……。

「俥は四台で足りるかしら、」と木下はつけ加えた、「僕は歩いて行くからいいが。」

「宜しいでしょう。」と高子が答えた。

啓介は眼をつぶった。寝台車に運ばれて病院へやって行く光景が、眼瞼の中に見えてきた。それは丁度死体を運ぶがようだった。静まり返っていた。堪らなく淋しかった。何の物音もしなかった。眼を開くとその光景が消えてなくなった。