Classiques japonais avec furigana
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さはしじんごろう
佐橋甚五郎
Lisez 佐橋甚五郎 (さはしじんごろう) de Mori Ōgai (森 鴎外) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 6 308 caractères · 13 écrans
甘利は瞼が重くなった。
たちまち笛の音がとぎれた。「申し。お寒うはござりませぬか」笛を置いた若衆の左の手が、仰向けになっている甘利の左の胸を軽く押えた。ちょうど浅葱色の袷に紋の染め抜いてある辺である。
甘利は夢現の境に、くつろいだ襟を直してくれるのだなと思った。それと同時に氷のように冷たい物が、たった今平手がさわったと思うところから、胸の底深く染み込んだ。何とも知れぬ温い物が逆に胸から咽へのぼった。甘利は気が遠くなった。
三河勢の手に余った甘利をたやすく討ち果たして、髻をしるしに切り取った甚五郎は、鼠のように身軽に、小山城を脱けて出て、従兄源太夫が浜松の邸に帰った。家康は約束どおり甚五郎を召し出したが、目見えの時一言も甘利の事を言わなんだ。蜂谷の一族は甚五郎の帰参を快くは思わぬが、大殿の思召しをかれこれ言うことはできなかった。
甘利は死んでも小山の城はまだ落ちずにいた。そのうち世間には種々の事があった。先に武田信玄が死んでから七年目に、上杉謙信が死んだ。三十六歳で右近衛権少将にせられた家康の一門はますます栄えて、嫡子二郎三郎信康が二十一歳になり、二男於義丸(秀康)が五歳になった時、世にいう築山殿事件が起こって、信康はむざんにも信長の嫌疑のために生害した。