Classiques japonais avec furigana
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ちくまがわのスケッチ
千曲川のスケッチ
島崎 藤村
Lisez 千曲川のスケッチ (ちくまがわのスケッチ) de 島崎 藤村 (しまざきとうそん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 81 668 caractères · 164 écrans
辰さんは年貢の仕度を始めた。五歳ばかりの小娘が来て、辰さんの袖に取縋った。辰さんが父親らしい情の籠った口調で慰めると、娘は頭から肩まで顫わせて、泣く度に言うこともよく解らない位だった。
「今に母さんが来るから泣くなよ」
「手が冷たい……」
「ナニ、手が冷たい? そんなら早く行ってお炬燵へあたれ」
凍った娘の手を握りながら、辰さんは家の内へ連れて行った。
谷に面した狭い庭には枯々な柿の樹もあった。向うの水車も藁囲いされる頃で、樋の雫は氷の柱に成り、細谷川の水も白く凍って見える。黄ばんだ寒い日光は柿の枯枝を通して籾を積み上げた庭の内を照らして見せた。年老いた地主は白髪頭を真綿帽子で包みながら、屋の内から出て来た。南窓の外にある横木に倚凭って、寒そうに袖口を掻合せ、我と我身を抱き温めるようにして、辰さん兄弟の用意するのを待った。
「どうで御座んすなア、籾の造え具合は」
と辰さんに言われて、地主は白い柔かい手で籾を掬って見て一粒口の中へ入れた。
「空穂が有るねえ」と地主が言った。
「雀に食われやして、空穂でも無いでやす。一俵造えて掛けて見やしょう」
地主は掌中の籾をあけて、復た袖口を掻き合せた。