Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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はるかなたび

原民喜戦後全小説

原 民喜

Lisez 原民喜戦後全小説 (はるかなたび) de 原 民喜 (はらたみき) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 60 577 caractères · 124 écrans

Aozora Bunko

あれはお前が女学生だった頃から持っていたゴム消だったが、僕はあの時計の面の針が一向動かないのがひどく気に入っていた。電灯の明りが夜更になると静かな流れをなして古ぼけた襖の模様の上を匐った。僕はそっと立上って、壁際にある鏡台の真紅な覆いをめくってみた。すると、鏡は僕の顔や僕の背後をそっと映している。僕は自分の顔を覘き込むより(何だか古い、もの寂びた井戸の底を覘くように)向側から覘いてくるものを覘き込もうとしていた。僕はお前の云っていたことを思い出す。「深夜の鏡で自分の顔を眺めると、怕くなることはありませんか」何気なくそういうことを云ったお前も、僕を覘き込むよりもっと向側から覘いてくるものを覘き込もうとしていたのではあるまいか。よくお前は臨終の話をした。人間の意識が生死の境目をさまよう時の幽暗な姿を想像するお前の顔には、いつも絶え入るようなものと魅せられたようなものが入混っていた。そして、僕たちは死のことを話すことによって、ほんとうに心が触れあうようにおもえたものだが……。

僕は絶えずあそこの部屋で自分の少年時代の回想をしていた。僕という少年が父親の死を境に変って行った姿をくりかえし繰返し考えていた。