Classiques japonais avec furigana
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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
Lisez 夜の靴 (よるのくつ) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 107 056 caractères · 213 écrans
自分らそれぞれの不心得のためからか。それとも世の中というものの成立が悪いからというべきか。おそらくそんなことではないだろう。いま、一寸首を縮めて私を見た妻の眼差は、実は、そういう幸福に似たものではなかったろうか。
人は幸福の海の上に浮いている舟のようで、腹だけ水につけ、頭を水から上げているから、無常の風に面を打たれて漂うのかもしれないと思った。
十月――日
別家の久左衛門の長男の嫁は、四つになる一粒種の男の子をこの五月に亡くして以来、次ぎがまだ産れそうな気配がないので、もう爺さん夫婦から睨まれている。いつ離縁になるか分らぬ不安ながらも、このごろは嫁もよほど覚悟が定って来たらしい働きぶりだ。ところが、本家のここの参右衛門の家では、樺太出征中の長男の帰りがいまだに分らぬので、嫁は実家へ帰りきりである。夜だけ寝にここへ戻って来るときの、その嫁の大切にされることは女王のごときものだが、いつ嫁に去られるものか気配も相当に不安な模様に、参右衛門夫婦のひそひそ話もいつもここへ落ちて来る。静な気立の良い嫁であっても、まだ実家の云うままに動く娘のままで、村で二番の裕福なその家から、一番の貧農のこの家の嫁になっている現在の情況から想像すると、参右衛門の不在の長男は稀に見る立派な青年らしい。