Classiques japonais avec furigana
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だいぼさつとうげ
大菩薩峠2
中里 介山
Lisez 大菩薩峠2 (だいぼさつとうげ) de 中里 介山 (なかざとかいざん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 195 601 caractères · 387 écrans
竜之助は、この声を聞いて身の毛がよだつようになります。
「坊や、お前の名は何というのだ……うむ、名前は忘れはすまい、言ってごらん」
「坊の名は郁太郎……」
「ナニ、郁太郎?」
竜之助は摺り寄って、子供の面に当てた紅葉のような手を振り払ってその面を覗き込もうとすると、
「いや! いや!」
子供は竜之助の手を振りもぎって、あちらへ逃げて行きます。
「お待ち……坊や、お待ち……」
竜之助はそのあとを追いかけて、
「郁太郎……お前の父親はここにいる」
竜之助は大きな声で呼びかけたが、郁太郎は小さな首を振って、
「嘘! 嘘! 坊には、お父さんというものはない」
小さい足どりで一散にかける。
「与八さん――与八さん――」
どこかで返事があって、
「おうい、郁坊やあい」
憐れむべし、この子、己れが実の親を厭うて、あらぬ人の名を慕うて呼ぶなり。
竜之助は立ち止まって、はふり落つる涙を払った手を見ると、涙と思ったのは悉く血だ。
竜之助は立ち尽して、その子の駈け行く方を見ていると、ノッソリと闇の中から一人の肥え太った男が出て来た。
「おうい、郁坊やあい」
その声は田舎訛りの言葉であるけれども、なんとも言えぬ慈愛に富んでいる声でありました。