Classiques japonais avec furigana
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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
Lisez 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) de 野村 胡堂 (のむらこどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 11 195 caractères · 22 écrans
いや全く、志津子夫人は夢中になるだけの値打は充分にあったのです。これだけの肉体的魅力と、才能と情熱とを持った人は、日本人の間にはそう沢山ある筈はありません。
ところで、此悲劇の舞台になった、南伊豆の別荘、曾て役の行者が、神斧鬼鑿の法術で彫り成したという伝説の凄まじい断崖の上の高楼――名づけて臨海亭というのも、実は志津子夫人の我儘な願いを容れて、二三年前に漸く出来上ったものだったのです。
奇岩怪石の上を拾って、五歩に一閣、十歩に一棧と言った恐ろしく洒落た建物ですが、一番上の母屋とも言うべき高楼は、千尋の荒海の上に臨んだ、大岩石の上へ乗出すように建てられたもので、その展望台から下を臨むと、数百尺の下は真白に笹縁を取った碧海で、鈍い銀色に光る岩の間を、岩燕がヒラリヒラリと飛交うのさえ、此世のものとも覚えぬ凄まじい大景観です。
知らない人が、豪華で雄麗で、安定感の豊かな母屋の書斎から、フト明るい展望台に出て欄干越しに、うっかり眼下の海を臨んだら、あまりの恐ろしさに胆を冷やすことでしょう。若し此欄干が外れるような事があったら――万々一にもそんなことは無い筈ですが、欄干に倚った人は礫のように落ちて、岩に砕かれるか、千尋の海に沈むか、恐らく死骸も残さずに、完全に此世界から消え去ることでしょう。