Classiques japonais avec furigana
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おぐらいけのはす
巨椋池の蓮
和辻 哲郎
Lisez 巨椋池の蓮 (おぐらいけのはす) de 和辻 哲郎 (わつじてつろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 6 016 caractères · 12 écrans
しかるにその花は、十間先も、一町先も、五町先も、同じように咲き続いている。その時の印象でいうと、蓮の花は無限に遠くまで続いていた。どの方角を向いてもそうであった。地上には、葉の上へぬき出た蓮の花のほかに、何も見えなかった。
これは全く予想外の光景であった。私たちは蓮の花の近接した個々の姿から、大量の集団的な姿や、遠景としての姿をまで、一挙にして与えられたのである。しかも蓮の花以外の形象をことごとく取り除いて、純粋にただ蓮の花のみの世界として見せられたのである。これは、それまでの経験からだけではとうてい想像のできない光景であった。私は全く驚嘆の情に捕えられてしまった。
が、この時の驚嘆の情は、ただ自然物としての蓮の花の形や感触によってのみ惹き起こされたのではなかった。蓮の花の担っている象徴的な意義が、この花の感覚的な美しさを通じて、猛然と襲いかかって来たのである。われわれの祖先が蓮花によって浄土の幻想を作り上げた気持ちは、私にはもうかなり縁遠いものになっていたが、しかしこの時に何か体験的なつながりができたように思う。蓮花の世界に入り浸る心持ちは、どうも仏教的な理想と切り離し難いようである。