Classiques japonais avec furigana
ja-reading.com
Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.
まぼろしのかなた
幻の彼方
豊島 与志雄
Lisez 幻の彼方 (まぼろしのかなた) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 41 763 caractères · 84 écrans
順造は妙な気持で彼女の姿を眺め初めた。
順一が少し熱を出すと、彼女は用を悉く女中に任せて、その枕頭につきっきりでいた。
「自分の子供に逢いたくはないかい。」と順造は尋ねてみた。
「いいえ、もう他人にやってしまったものですから。」
「それでも始終考え出すだろう。順一とどちらが可愛いい?」
「それはお坊ちゃまの方でございますわ。私お坊ちゃまを自分の児の……自分の児より幾倍可愛いいか分りません。乳を上げてるばかりでなく、何だか深い御縁があるような気がしまして……。」
そういう彼女の気持が、彼にはよく了解出来なかった。じっとその顔を眺めてやった。
「順一は仕合せだ。」
独語の調子で云い捨てた彼の言葉を、彼女はよそ事に聞き流して、ぼんやり室の隅を見つめていたが、ふとしみじみと云い出した。
「奥様はほんとにお仕合せでいらっしゃいました。旦那様のお腕に抱かれて息をお引取りなさいましたのですもの……。」
順造は物につき当ったような気がして黙り込んだ。秋子の臨終のことがまざまざと記憶の中に蘇ってきた。その時彼女が生きていた世界のことを思うと、眼の前が真暗なものに閉された。
秋子が生きていてさえくれたら!