Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

あるおとこのしゅき

或る男の手記

豊島 与志雄

Lisez 或る男の手記 (あるおとこのしゅき) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 43 279 caractères · 86 écrans

Aozora Bunko

それから旅を続けると共に、彼女のことは忘れるともなく忘れてしまった。そして八月の半ば、若い女が不意に東京の私の自宅へ飛び込んできて、月岡光子と女中へ名前を通した時、私はそれが彼女であるということを、逢ってみるまでは思い出せなかった。

所で、会社の応接室で、いつまでも肝心の話を持出しそうにない光子を相手に、多少じれったい気持になりながらも私は、彼女がもじもじすればするほど、表面だけは益々落着き払って、時々黒目が上眼瞼に引きつけられる彼女の眼付を、物珍らしそうに待受けてるうちに、ふと、北海道の温泉宿のことをまざまざと思い浮べ、次には、窓の外の澄みきった蒼空を眺めやり、次には、いつ人がはいって来ないとも限らない鹿爪らしい応接室を、そぐわない気持で見廻して、こんな所で彼女が話しにくいのも無理はないと考えた。と同時に、解放された晴々とした所に出てみたくなって、少し外を歩いてみようかと云ってみた。

光子は喫驚したように黒目を据えて眼を見張ってから、暫く何とも云わなかった。

「それに、もう時間だから、何処かで昼飯でも食べましょう。」と私は云った。

彼女は御飯は頂きたくないと答えたが、お差支えがなければ外を歩いた方がいいと云い出した。