Classiques japonais avec furigana
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りゃくだつせられたるおとこ
掠奪せられたる男
豊島 与志雄
Lisez 掠奪せられたる男 (りゃくだつせられたるおとこ) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 23 398 caractères · 48 écrans
彼女の八畳の室には、床の間に元信の半軸がいつも懸っていて、その下の青銅の鉢には必ず花が活けてあった。それと向い合った壁際には桐の箪笥が油単に被われて、その側に紫檀の大きな鏡台が置いてあった。その少し斜め上の壁に細棹の三味線が一つ、欝金木綿の袋にはいって鴨居から下っていた。――山田は彼女の家から三味線の音が洩れるのを一度も聞いたことが無かった。琴の音は洩れている時があった。その琴は多分二階の室に置いてあるのであろう。――山田はいつもその室で、そして多くはその縁側で、秀子のくんでくれる茶を飲んだ。
「今日はあなたを喫驚さしてあげるわ。」そう或る日秀子は山田に云った。
二人はいつものように、秀子の室の縁側に足を投げ出した。そしていつものような下らぬ話をしていた。わざと電気をつけないである室の夕暮の薄明のうちに、秀子の顔がほんのりと白く浮き出していた。その顔は、眼と唇とで絶えず山田に微笑みかけた。山田はその誘惑を感ずる毎に、しきりに手を額にやって、長い頭髪を撫で上げた。
「喫驚させることって何です。」と遂に山田は尋ねた。
「ほほ、まだあなたに分らないの?」
「だって何とも云わないから分りようはないじゃありませんか。