Classiques japonais avec furigana
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いけぶくろのかい
文藝別冊[総特集]岡本綺堂
岡本 綺堂
Lisez 文藝別冊[総特集]岡本綺堂 (いけぶくろのかい) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 72 671 caractères · 149 écrans
隣に床を延べているお久はと覗いて見ると平日は寝付が悪いと口癖のように云っている彼女が、今夜に限って枕に顔を押付けるかと思うと、何にも云わずに衾をすっぽりと引被ってしまった。
寝付が悪いというお久が今夜は熟睡って、寝坊だと笑われている自分が今夜は何うして睡られそうもないので、お菊は幾たびか輾転した。軈てうとうとと睡ったかと思うと、彼女は何だか得体の知れない真黒な大きい怪物にぐいぐいと胸を圧さえ付けられて、悶いて苦しんでようように眼を醒ますと、しっかり獅噛付いていた衾の襟は冷い汗にぐっしょりと湿れていた。
「ああ気味が悪い。」
彼女は寝衣の袂で首筋のあたりを拭きながら、腹這いになって枕辺の行燈の微な灯かげを仰いだ時に、廊下を踏む足音が低くひびいた。
「おや、泥棒か知ら。」とお菊は今夜に限って急に怖気立った。彼女は慌てて俯伏して再び衾を被っていると、枕もとの襖が軋みながらに明いた。長い裾を畳に曳いているらしい衣の音が軽く聞えた。怖いもの見たさに、お菊は眼を少しく明けて窃と窺うと、うす暗い行燈の前に若い女の立姿が幻のように浮き出していた。もしや幽霊かとお菊は又悸えて首を悚めると、女は彼女の枕もとへすうと這い寄って来て低声で呼んだ。