Classiques japonais avec furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lisez 旅愁 (りょしゅう) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 576 941 caractères · 1138 écrans
なかった。
カフェー・トウリオンフのテラスには、数百の真紅な籐椅子がいつも道路に向って並んでいた。この日は夜であったから、久慈たちの一団は赤い皮張の屋内へ這入ってフィンを命じた。淡紅色の紫陽花の一面に並んでいる壁面には、豪華な幕が張り廻らされ、三方に映り合った花叢はむらむらと霞の湧き立つような花壇であった。丁度、紫陽花の中から楽士たちのタンゴが始まり出したときである。
「やア。」
と云って這入って来た三人の日本人の一人が、東野の方を見て手を上げ近よって来ると、すぐ傍の椅子に並んだ。東野は新しい人人を久慈や矢代にそれぞれ紹介した。それらの人人は、日本の大使館に出入する若手の技師の塩野と、平尾男爵、書記官の大石であった。いずれもこれらの人人はパリの上流階級のサロンへ出入しなければならぬ関係から、山の手の人人の中でも代表的な紳士たちというべきであったが、永く帰らぬ東京の様子など懐しそうに訊ねられるまま、千鶴子や久慈が答えているうちに、突然大石は千鶴子を見て、
「じゃ、あなたはロンドンの宇佐美君の妹さんですか。」と驚いて訊ねた。
「ええ、兄を御存知でございますの。