Classiques japonais avec furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lisez 旅愁 (りょしゅう) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 576 941 caractères · 1138 écrans
それは考えれば全く恐るべき結果になる。しかし、それも今は考えたって始まらぬ。なるようになって来て、誰がこんなにしたのかも分らなかった。もう自分はこの喜びを喜ぶまでだと、彼はタキシイドを整えた元気な姿でまたソファへ腰を降ろしひとり舞台の悲劇を見つづけた。
終幕前の休みにはもうホールの観衆は全く興奮していた。遊歩廊を歩く男女の組は身体をぴったりとよせ合い、も早や通る他人の顔どころでなく、それぞれの愛情を誓い合うかのような切なげな眼差しで廻っていた。矢代はこのような光景を露台から見降ろしていると、自分も人人の興奮の中を歩きたくなって来て階段を降りていった。綺羅びやかな紳士淑女の揉みぬかれたソアレの匂いも、自分の匂いのように感じられた。男たちの肩や胸に散っている白い粉の痕跡が眼につく度びに、自然に矢代の手は自分の肩へ廻るのであった。
しかし、このホールに満ちている人人の中で、恐らく自分ほど喜びを得たものはあるまいと矢代は思った。そう思うと廻遊している満座の陶酔のさまも、ともどもに打ち上げていてくれる華火のように明るく頭上へ降りかかって来る。ソアレの襞襞から煌めく宝石の火も、すべてこれ自分への祝典と思えばたしかにそれもそうだった。