Classiques japonais avec furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lisez 旅愁 (りょしゅう) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 576 941 caractères · 1138 écrans
感じられた。滝川家と遠く離れている九州を郷里としている父が、どうしてこの保守を何より貴ぶ地方の滝川家の娘と結婚したかは疑問だったが、恐らく母の長兄の東京に遊学中、二人の間を結んだかと想像せられるのみで、両親からこの事に関して彼は一言の話もまだ聞かなかった。しかし、戦国時代の話が出るときに限って、矢代の父が意気込んで自分の家系のことを妻に云う言葉の陰には、それ相当の復讐に似た淡い憂いもあるのだった。
「そんならどうしてここの家、士族じゃありませんの。」
と矢代の母が父に、訊ね返した不服そうな言葉を、何か二人の気ばだった表情の間から、矢代は思い出すこともある。表面静に見えながら気象の強い母は、家系のことでは負け目を感じるのが不快らしく、何より武士道を重んじる心の姿勢は、年とともに母の中から強く感じ、そのために矢代は、父と母との間に立って苦しんだ日も、母の実家へ来る度びに思い起す記憶である。
矢代が歴史に興味を感じ始めたのは、つまりはこの父母の家系の相違がもとだったが、平民の父が妻の実家の士族の遺風を尊びつつ、秘かに自分の平民をも誇るところは、他にまた特別の理由のあるのが後に分った。