Classiques japonais avec furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lisez 旅愁 (りょしゅう) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 576 941 caractères · 1138 écrans
また深く考えずとも、やはり一度は同様のことが当然来るべきことも分っていた。避けられぬことならまたこれもやむを得ず、このまま自分も別れて行こうと彼は決心を固め、聖橋の袂の所に立って往還を眺めつづけた。胸の痛んで来るような寂しさももう全身に廻っているかとも思えるほど、秋の日のまぶしさに却って身体がだるく、放心したように彼は何も考えていなかった。すると、そこへ千鶴子が後から来て矢代から少し離れて立っていた。
「もういいんですか。まだ少し顔色がよくないなア。」
矢代は千鶴子に近よっていって訊ねた。
「あそこ空気が籠っていけないの。歩く方がいいわ。」
千鶴子は顔を背け先に立って聖橋を渡って行きかけたが、また急にひき返してお茶の水の駅の方へ歩いた。矢代がタクシを拾うまで待つようにひきとめてみても、やはり千鶴子は後姿を見せて駅の中へ入って行った。消えて行く千鶴子の後姿がひどく慎ましやかに見え、小さな黒い帽子の後に下っている紅色のネットが、突然パリの匂いを吹き送って来た。彼はあのときの二人の夢のような調和と、今のごつごつした喰い違った想いの相違も、すべてはこういうのを実際に起っている夢と現実との相違だと思い眼を見張った。