Classiques japonais avec furigana
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ばいしのつえ
梅颸の杖
吉川 英治
Lisez 梅颸の杖 (ばいしのつえ) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 15 966 caractères · 32 écrans
機を見て、山陽の方から、杖の話を持ち出した。そして、象牙がしらに金環が嵌っているので、船中で盗まれたのかも知れぬと言った。
『惜しい、それは惜しい』
中斎はしきりに言って、
『お話を承れば、まことに涙ぐましい御母堂のお心づかい。その慈愛の杖を失われては、折角お招きいたしても、話が浮きませぬ。すぐ取り寄せますから、それの参る迄、もう一献』
と、盃をすすめた。
そして、ひとりの同心を呼んで、何やら耳打ちをして退がらせた。
『さ、もう少し如何ですか。酒は、先生がお好みの剣菱を選んでおきましたが』
『それは口に適っておりますが、いかんせん近頃は、あまり過さぬことにして居りますので』
『御謙遜でしょう。大酒家の定評は、貴作の詩のように、隠れもなく称われておりますのに』
と、そばから格之進もすすめる。
『いや、遠慮はいたしませぬ』
中斎は、品よくことばを移して、話題は、それからそれへ亙った。
然し、陽明学と修史の事だけには、双方から触れなかった。
そして、時を忘れていると、ちょうど明りが灯る頃。
『遅くなりました。御紛失の杖は、これでございましょうか』
と、最前の同心が、ふすま際に屈んだ。