Classiques japonais avec furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lisez 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 145 078 caractères · 285 écrans
「お酒がまいりました、そこを閉めてこっちへいらしって下さい」とおくみは云った、「どうなさいましたの、怒っていらっしゃるんですか」
「誰が、私がか」甲斐は振り向いて微笑した。唇のあいだからほんの少し、きれいな白い歯が覗いた、「怒っているのはおまえだろう、それとも、もうおさまったのか」
「済みませんでした」おくみは含羞みながら顔を伏せた、「あんまり心配が重なるものですから、ついのぼせてしまいましたの、どうか堪忍して下さいまし」
「女はいいな」と甲斐は呟いた。
おくみには聞えなかったらしい。やはり含羞んだ眼で眩しそうに甲斐を見あげ、寒いからそこを閉めて下さい、と云った。
「いまなん刻ぐらいだ」
「七つ(午後四時)ちょっとまえでしょう」
甲斐は障子を閉めてこちらへ来、膳の前に坐って盃を取った。
「政右衛門のところへ使いをやってくれ」と甲斐が云った、「ちょっといそぎの遠出をするから、肩替りをつけて、四枚の早駕籠をすぐよこすように」
「あなたが、おでかけですか」
「いそぐ、と念を押すように云ってくれ」
「あなたがいらっしゃるのですか」
「そうだ」と云って甲斐は手をあげた、「あとは訊くな、訊いても答えられない、使いをすぐにやってくれ」