Classiques japonais avec furigana
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はるはばしゃにのって
機械・春は馬車に乗って
横光 利一
Lisez 機械・春は馬車に乗って (はるはばしゃにのって) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 77 492 caractères · 156 écrans
「お前はいったい何者だ」
妻や子供を見ながらこう云う気持ちが起っては、以後の生活の不安も意想外なところに根を張っているものだと、梶は身の周囲を取り包んでいる漠(ばく)とした得体の知れない不伝導体をごしごし擦(こす)り落しにかかったが、ふと前に一足触った芳江の皮膚の柔かな感触だけが、嘘(うそ)のようなうつつの世界から強くさし閃(ひらめ)いているのを感じると、触覚ばかりを頼りに生きている生物の真実さが、何より有難いこの世の実物の手ごたえだと思われて、今さら子供の生れて来た秘密の奥も覗(のぞ)かれた気楽さに立ち戻り、またごろりと手枕のまま横になった。
世界のどこかに自分の子供があるということは、全く捨て置き難い。この地を愛せずしてなるものか。――南無(なむ)、天地、仏神、健(すこや)かにましまし給え。敵や悪魔を払い給えと、梶は胡桃(くるみ)の葉かげからきらめく日光に眼を射られながら、空の青さ広さに大の字となり、畳の上の喜ばしさに再びきょろきょろと飽かず周囲を見廻した。
今まで度度東北地方へ来たにも拘らず、梶はこの度ほどこの地方の美しさを感じたことはなかった。