Classiques japonais avec furigana
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きかんしゃ
機関車
佐左木 俊郎
Lisez 機関車 (きかんしゃ) de 佐左木 俊郎 (ささきとしろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 5 808 caractères · 12 écrans
「機関手さん! 御散歩?」
靄の中から病気の繊い女の声がした。
吉田は口笛を止めて振り返った。鼠色の女の姿が、吉田の胸の近くまで、跳ねるようにして寄って来た。
「機関手さん! 済みませんが、私を送って行って下さらない?」
顔を伏せるようにして、女は、袂の端を噛みながら低声にいった。白粉の匂いと温泉の匂いとが、静かに女の肌から発散した。
「ね! いけませんこと?」
「…………」
吉田は、ひどく当惑した。彼は黙って、ただ、女の白い顔を視詰めていた。
「いけませんこと? ね、機関手さん。」
こう彼女は繰り返した。
「送って下さいよ。ね、いいでしょう?」
「あなたの家は、一体、どこなんです?」
吉田は、彼女の肌からの体温を身近に感じながら、初めて口を開いた。
「すぐですわ。すぐそこなの。」
「じゃ……」
吉田は首を垂れるようにしながら歩き出した。彼女は彼の身体へ寄り添うようにしてついて行った。
四
彼女は町端れに、六畳と三畳との二間の貸家を借りて、そこでささやかながら生存を続けていた。土地の誰かが、鉄道の開通した当座に、長い逗留の客を当て込んで建てた家であった。