Classiques japonais avec furigana
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あざらしとう
海豹島
久生 十蘭
Lisez 海豹島 (あざらしとう) de 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 24 311 caractères · 48 écrans
膃肭獣がまた病気になったのだ。
とるにも足らぬ妄想の閾に立って狭山をながめ、勝手に嫌悪したり怖れたりしていたが、ひとりよがりの独断をふり落してしまうと、狭山にたいする不快の念は拭い去ったようになり、この孤島に自分とこの男と二人っきりしかいないのだという、親愛の情のようなものさえ感じるようになった。この数日の友だった男の悲嘆を見過して置けず、自分に出来ることなら応分の手助けをしようと思い、上衣をひっかけて狭山のいるほうへ行った。
薄暗いランプの下に膃肭獣が長くなり、背筋を波うたせるように痙攣させながら、嘔吐をするようなそぶりをする。毛並みの艶がなくなり、髯は垂れさがり、素人の眼にさえ覚束なそうに見える。
狭山は私が傍に立っているのさえ眼にはいらないようすで、赧黒い頬にとめどもなく涙をつたわらせながら、
「すぐおさまる」とか、「元気を出したり」とか、涙にくぐもった声で呼びかけ、口を割って水を飲ませ、掌を煖炉で温めては一心に膃肭獣の背をさすっている。膃肭獣は苦しそうに呻きながら、首をあげて狭山の顔を見あげ、前鰭を狭山の腕に絡ませて悲しげな愛想をする。すると、狭山はさする手をやめ、大きな声で泣きだしてしまうのだった。