Classiques japonais avec furigana
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ちちのしゅっきょう
父の出郷
葛西 善蔵
Lisez 父の出郷 (ちちのしゅっきょう) de 葛西 善蔵 (かさいぜんぞう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 9 047 caractères · 18 écrans
の世界は断ち切りたいと、しいて思ったものであった。「雪子は死ぬだろう……」と、私は今朝の烏啼きのことがまた思いだされた。
「雪子はまた麻疹も出たらしいね。今日母さんから手紙が来たよ……」と、私はFに話しかけた。
「そう……」と言って彼は私の顔をちらと視たが、すぐまた鉛筆を紙の上に走らした。
私もそれきり黙って盃を嘗めつづけていたが、ふと、机に俯向いている彼の顔に、かなりたくさんの横皺のあることを発見して、ひとつはこうした空気から遁れたい気持も手伝って、
「ほう……お前の額にはずいぶん皺が多いんだねえ! 僕にだってそんなにはないよ。猿面冠者の方かね。太閤様だな。……ハハハ。せい公そうだろう?」と茶湯台の向うに坐ってお酌していた茶店の娘に同感を強いるような調子で言った。
「そうのようですね。お父さんにはそんなにないようですね」と、娘も何気なく笑って二人の顔をちょっと見較べる様子しながら言った。
それが失策だった。Fは黙ってちらりと眼を私の方に向けたが、それが涙で濡れていた。どんな場合でも、涙は私の前では禁物だった。敏感な神経質な子だから、彼はどうかすると泣きたがる。