Classiques japonais avec furigana
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うみがめ
異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
岡本 綺堂
Lisez 異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二 (うみがめ) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 144 507 caractères · 291 écrans
横田というのは、東京の××新聞の社員で、去年からこの静岡の支局詰めを命ぜられた青年記者である。学生時代から倉沢を知っているというので、ここの家へも遊びに来る。わたしも倉沢の紹介で、このあいだから懇意になった。その横田がたずねて来るのに不思議はないが、その人の姿がわたしの眼にはみえないのである。倉沢は何を言っているのかと、わたしは少しく烟に巻かれたようにぼんやりしていると、彼はわたしを置去りにして、その人を迎えるように足早に進んで行ったかと思うと、やがて続けてその人の名を呼んだ。
「横田君……横田君……。おや、おかしいな。どうしたろう。」
「君は何か見間違えているのだよ。」と、わたしは彼に注意した。「横田君は初めから来ていやあしないよ。」
「いや、確かにそこに立っていたのだが……。」
「だって、そこにいないのが証拠じゃないか。」と、わたしはあざけるように笑った。「君のいわゆる『群衆妄覚』ならば、僕の眼にも見えそうなものだが……。僕にはなんにも見えなかったよ。」
倉沢はだまって、ただ不思議そうに考えていた。どこから飛んで来たのか、一匹の秋の蛍が弱い光りをひいて、彼の鼻のさきを掠めて通ったかと見るうちに、やがてその影は地に落ちて消えた。