Classiques japonais avec furigana
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やのしのとい
矢押の樋
山本 周五郎
Lisez 矢押の樋 (やのしのとい) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 14 468 caractères · 29 écrans
屋敷の中は混雑していた。
国家老であり、嫂の実父である塩田外記をはじめ、北園五郎兵衛、赤松靱負、森井大蔵、それに勘定奉行外村重太夫などが、すでに客間へ集っていたし、なおまた後から次々と人が馳けつけて来つつあった。……嫂のなつ女は、極めて落着いた態度で客の接待をしていたが、梶之助の顔を見た刹那に、泣くような表情を颯とその眸に走らせた。
「何処へ行っていたのだ」塩田外記は銀白の眉の下から鋭く睨めつけながら、梶之助が坐るのも待たずに叱りつけた。
「留守を預る責任の重い体で、いつもそう出歩いていてどうするのだ、おまえが気楽に遊んでいるあいだに、兄監物は江戸表で切腹して果てたぞ」
「それでお役目はどう致しました、お役を果して死にましたか」
「役目が果せれば切腹には及ばぬ」
「……では、では」
「伊十郎、話して聞かせい」外記がそう云って振返ると、末席にいた内野伊十郎が顔をあげた。……急使に走せつけた疲労であろう、蒼白く憔忰して、痙攣ったような眼をしていた。彼は監物に附いて江戸へ行った家士の一人である。
「……申上げます」伊十郎は手をついて云った、「旦那さまには御出府以来、さまざまに御苦心をあそばしましたが、公儀の御意向は中々以って動かず、恐れながらお上にも、もはや諦めよと再三仰せあった由に承わります。