Classiques japonais avec furigana
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わたしのおぼえがき
私の覚え書
宮本 百合子
Lisez 私の覚え書 (わたしのおぼえがき) de 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 8 746 caractères · 18 écrans
と、笑った。
七時五分、金沢駅のプラットフォームに降ると、私は、異常な光景に目をった。もう此処では、平常の服装をした人などは一人もいない。男は脚絆に草鞋がけ、各自に重そうな荷と水筒を負い、塵と汗とにまびれている。女の数はごく少く、それも髪を乱し、裾をからげ、年齢に拘らず平時の嬌態などはさらりと忘れた真剣さである。武装を調えた第三十五連隊の歩兵、大きな電線の束と道具袋を肩にかけた工夫の大群。乗客がいつもの数十倍立てこんだ上、皆な気が立った者ばかりだから、その混雑した有様は言葉につくせない。誰も自分の足許をしっかり見ているものなどはなく、又、押し押され、おちおち佇んでもいられない。上野行の急行に乗込む時は、人間が夢中になって振り搾る腕力がどんな働をあらわすか、ひとと自分とで経験する好機会であったと云うほかない。
列車は人と貨物を満載し、膏汗を滲ませるむし暑さに包まれながら、篠井位までは、急行らしい快速力で走った。午前二時三時となり、段々信州の高原にさしかかると、停車する駅々の雰囲気が一つ毎に、緊張の度を増して来た。在郷軍人、消防夫、警官などの姿がちらつき手に手に提灯をかざして、警備している。