Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(三) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 222 108 caractères · 446 écrans
おれにもここへ来ては考えがあることだ。……それよりはな、主膳」
「は」
「弱ったぞ、ちと逸まッた」
「逸まッたとは」
「例の女のことだ」
「藤夜叉のことでございますか」
「それよ」
と、道誉は杯も手に忘れたまま、しばし、その煩悩を、うつろな顔に描いていた。
「おれの、旅の留守に」
自分の痛い部分へ、自分で触るように、道誉は口しぶりながら、主膳へ訊き出した。
「藤夜叉……。どうしておいたな。どんな風か」
「は。ご出立の前に、密々、仰せつけおかれたように、抜かりなくしておきました」
「抜かりなく?」
よくしたとでも賞めることか、道誉は言った。
「ふウむ。そうか。……だがあのさい、何とそちに、いい残して行ったかな?」
これには主膳も、あいた口がふさがらない。
もっとも、あれは三月七日の直前だった。
先帝護送の大役をおびて、都を立ち出るまぎわでもあったから、主君道誉のあたまも、何やかや、大変だったには違いない。
しかし、である。
そんな大変な中ですら忘れずに「きっと、しておけよ」と、命じられたことではないか。
で、主膳としても、思い切った御命令とは思ったが、主命モダシ難シ、であった。